みなさん、日本の国技は相撲という認識だと思いますが、カナダの国技をご存知でしょうか。
雪国にお住まいではない方ですとあまり馴染みのないスポーツかもしれませんが、カナダの国技はアイスホッケーと言われています。冬には凍った湖などで子どもたちがアイスホッケーを練習したり、バンクーバー市内には日本でいうコミニュティーセンターの様な場所が多数あり、そこには高い確率でスケートリンクがある為、カナダでは多くの人がごく普通に気軽にアイススケートやアイスホッケーをプレーできるのです。
私はカナダへ行き初めてアイススケートをした為、最初はへっぴり腰でヨチヨチ歩くのが精一杯でした。するとそんな大人は珍しかったのか、カナダ人の小さな子供達4.5人に囲まれて、手取り足取り教わる始末となってしまいました。笑
バンクーバーにはアイスホッケーチームがあり熱烈なファンが多い事から、このチームが試合の日は私が働いていたレストランでは閑古鳥が鳴くほど暇でした。そして、試合が終わるとどっとお客様が来るという位アイスホッケーの試合に町中の人々が左右されるのです。
ある日の大暴動
2011年6月15日、バンクーバーの北米アイスホッケーリーグ (NHL)チームである バンクーバー・カナックス(Vancouver Canucks) が、ボストン・ブルーインズ(Boston Bruins) に、スタンレー・カップ(Stanley Cup)の決勝で0-4 で負け、優勝を目の前に盛り上がっていたファンが暴走し、ダウンタウン内で大きな暴動が起こりました。Canucks は過去 1982年、1994年と 2回、スタンレーカップの決勝に進出しているのですが、1982年は完全に敗北、1994年はこの時と同様、トータル 4-3 の惜敗で惜しさ故の暴動が起き、18年ぶりの敗北大暴動となりました。
私はこの年ちょうどバンクーバー在住で、その日はたまたま仕事が休みだったので、家の近くのスポーツバーで観戦していました。元々アイスホッケーには全く興味がなく、ルールすらも知らなかったのですが、郷に入っては郷に従えと言いますか、なんとなく町全体が盛り上がっていて楽しそうだなぁ~なんて単純な動機から、当日はしっかりCanucksのTシャツを着て応援しました。笑
試合の日はダウンタウンにある中央図書館の周辺にいくつもの巨大スクリーンが設置、道路はもちろん閉鎖され、Canucks の Tシャツを着た人、顔や肌にペイントをした人、また気ぐるみを着た人など大勢の観客が集まり、スクリーンに向かって声援をあげながら応援していました。しかし、職場のボスや同僚からは「もしCanucksが負けたら町中が大変な騒ぎになって、すごく危ないから絶対に1人で出歩いちゃダメだよ!絶対だよ!」と何度も注意されました。しかし若気の至りですね、私は友達と敗戦後すぐに帰宅せず中心部へ行ってしまったのです。ダウンタウンは人で溢れかえっていました。奇声を発する人が大勢いて、みんな何かに向かって歩いたり走ったりし、更には看板を壊したり、ガラスを割る人もいました。この日の決勝戦は試合が始まってから Canucks が点数を入れる隙はほとんど無く、数分ごとに Bruins に点が入っていき、おそらく途中から負けを覚悟していたのでしょうか。喧嘩が始まったり、悪ふざけが始まったり、警察に捕まる人などが試合終了に向けて徐々に増えていったそうです。
怖いもの見たさで行ったものの、あちこちから爆発音と共に炎と黒煙が吹出しているのが分かり、より一層町中がザワザワとし始めました。これにはさすがに恐怖を感じ私達は急いで帰宅しました。私は当時ダウンタウンにあるマンションに住んでいたので、家にいても外から大声で何かを叫んでいる声が夜中の3時頃まで聞こえていました。
翌日のニュースを見ると、何人かで車を引っくり返し、火をつけたという事件もあったそうです。また、近くにあった銀行や店舗のガラスを割ったり、その割ったガラスから侵入してブランド物などの商品を盗んだり、パトカーをはじめ、駐車場に停まっている車を引っくり返し放火したり、警察に発煙筒やビンなどを投げつけるなどやりたい放題だった様で、最終的には出動した機動隊が催涙弾で鎮圧しながら抑えこみ、結果100人以上が逮捕され、少なくとも 12人が刃物で刺されたほか、転んだり頭を打つなど 130人以上と警官9人が負傷という世界各国のニュースになるほど大きな歴史に残る大暴動となったのでした。
メディアでは伝えられていない事
テレビや新聞では一部の人の暴動と伝えていました。確かにガラスを割ったり、放火したり、警察にぶつかっていったりという実行犯は一部だったかもしれませんが、実際は回りにいた大勢の一般人も、それら実行犯に対して声援を送ったりしているのを私は見ました。また、燃えてる車の前でポーズをとって写真を撮ったりしていた人が大勢いたという話も友人から聞き、そういった人も含めるとかなりの人数が暴動に参加していたというのが現実だったのではないかと思います。この大暴動を身をもって経験出来て良かったとは言い難いですが日本では絶対にありえない事で、暴動を起こしている人を目の辺りにして、たかがスポーツの試合に負けたくらいでこんな暴動を起こし、自分の町や他人の車等を破壊したり盗みをしたり、そしてそれを楽しむようなファンがここには大勢いると思うととても恐怖を感じました。
日本でも熱狂的な野球ファンが優勝すると川に飛び込む等のニュースが度々取り上げられますが、この暴動を体験してしまうと川に飛び込む程度なんて何だかすごく幼稚な行動で、まだまだ日本は平和だなぁ~と感じてしまいます。
暴動の次の日、ガラスを割られた店舗に一時的に貼られた板には、まるで交通事故後の現場で亡くなった人へ花やメッセージを残すかのように前夜の暴動を見てショックを受けた人からのメッセージがたくさん書き寄せられていました。
自然災害や戦争でも何でもなく、たかがスポーツの勝ち負けだけでここまでの暴動が起きたのです。過激な行動を起こした人々はもちろんですが、これは既に過去に暴動の事例があり、今回も同じ状況になり得る可能性が想定できていたにも関わらず、スクリーンを多数設置して道を封鎖し、大勢を集めファンを盛り上げ過ぎてしまったバンクーバー市にも問題があったのではないかと思いました。当時カナダのBC州では公共の場、公園での飲酒は禁止でこの日ももちろん禁止でしたが、もはやそういう次元の話ではないですよね。
※2023年4月まではBC州で全面的に飲酒禁止だっでしたが、本土のバンクーバーでは多くの公園で飲酒可能となりました。
バンクーバーは住みやすい?
2023年6月21日、イギリスのエコノミスト誌が「世界で最も住みやすい都市(The Global Liveability Index 2023)」のランキングを発表し、バンクーバーは5位にランクインしています。2002年から2010年までは連続で第一位に選ばれ、更に2010年には冬季オリンピックの開催地になったことでも話題になりました。しかしその翌年にこの暴動が起きていたのです。この様なランキングやニュースだけでは分からない実情がたくさんあります。海外に実際に住むとまではいかないにせよ、実際に足を運び自分の目で見るという事が何よりも大事なのではないかと思います。
Research skills are the life skills.
これは当時語学学校の先生が言っていた言葉ですが、今でも本当にそう思います。情報収集能力は生きていく上で絶対に必要です。そのお手伝いが出来る様、今後も様々な情報提供に努めて参ります。どんな些細な事でもお気軽にお問い合わせ下さい。