
初めてダッカを訪れたとき、正直なところ「これはなかなかの混沌だな」と思いました。
車、リキシャ、人、牛までが同じ通りを共有していて、クラクションの音がほぼBGMとして定着しています。信号はあまり機能していないようですが、なぜか交通が成り立っている。そんな街です。
けれど、その混沌の中に、ある種のリズムのようなものがあります。
じっと目を凝らしてみると、人々の顔には焦りがなく、どこか楽しそうな雰囲気すら感じられるのです。
それもそのはず、この国の平均年齢は27歳。
つまり、多くの人がこれから人生を築いていく途上にいます。
若者たちは英語を流暢に話し、スマートフォン片手にオンライン授業を受けたり、フリーランスのITの仕事をしていたり。
カフェではノートパソコンを開いてコードを書いている人や、Zoomで海外と会議している学生に出会うことも珍しくありません。
バングラデシュでは、教育に対する熱がとても高いです。
都市部の中間層は、収入の大きな部分を子どもの教育に使います。
人気の分野は、情報技術、エンジニアリング、ファイナンスなど。
将来を見据えて、手に職を持ち、世界で通用する力をつけたいという意欲がまっすぐ伝わってきます。

また、英語の普及度の高さも印象的です。
ホテルやレストランはもちろん、タクシー運転手や市場の店員まで、簡単なやりとりなら英語で対応してくれます。
小学校から英語教育があり、日常的にネットやSNSで世界とつながっているため、若い世代ほど抵抗がありません。
「言葉の壁」は、この国ではあまり高くないのだと実感させられます。

そして、この国には、目に見える変化があります。
インフラ開発がまさに現在進行形で進んでいるのです。
ダッカでは地下鉄が建設中で、主要エリアをつなぐモノレール計画もあります。
空港は国際線の新ターミナルが建設中で、完成すればアジア各国とのアクセスがさらにスムーズになる見込みです。
幹線道路や橋の整備も進み、交通の流れが少しずつ変わってきています。
もちろん、いまはまだ渋滞も多いですが、街のスカイラインは確実に新しくなりつつあります。

この「変わりつつある風景」は、不思議な説得力を持っています。
それは、ビジョンとして掲げられた未来ではなく、毎日の暮らしのなかに少しずつ根を張っている未来です。
人々が前向きに、そして現実的に動いている姿を見ていると、「この国は今、未来と現在を同時に生きているのだな」と感じます。
バングラデシュというと、日本ではあまり具体的なイメージを持たれていないのが実情です。
けれど実際に来てみると、ここには人間味があり、若いエネルギーがあり、そしてまだ描ききれていない「余白」があります。
それは時に不便さとも表裏一体ですが、その未完成さのなかに、柔軟さや可能性があるのです。
日本では成熟や安定が美徳とされがちですが、ここでは「これから」が美徳です。
未完成であることが、前向きな状態として自然に受け入れられています。
その空気は、短い滞在であっても、じわじわと心に染み込んできます。
この国の価値は、経済指標や開発計画だけでは語りきれないところにあります。
人々の表情、交差点のざわめき、午後の光に揺れる洗濯物。
そうした何気ない風景のなかに、暮らしのリアルがあり、国の鼓動があります。
バングラデシュという国は、数字では測れない魅力を、確かに持っているのです。
G.I.Sコンテンツ担当 鎌倉